東京高等裁判所 昭和46年(う)221号 判決
被告人 高野健一
〔抄 録〕
所論は、原判示第一の二の事実につき事実誤認を主張し、被告人が石川京子の監禁に関与したのは、工業団地を発進して宇都宮方面に行き、Uターンして鹿沼市茂呂二、三五〇番地飯島正男方西北方の空地までであつて、同所で被告人は、共犯者吉沢、および半田に向かい女を早く帰した方がよい旨を告げてそのまま自宅に帰つており、その後の監禁には関与していないから、被告人が、右同女を宇都宮市大谷町、今市市、藤原町大字高徳を経て宇都宮市石井町二、六七五番地付近路上まで同女を監禁した、と認定した原判決は、事実を誤認したものである、というのである。
そこで、記録を点検すると、被告人は、原審共同被告人吉沢三郎、同半田文男、同阿久津哲司とともに、原判示のとおり、石川京子を被告人らの乗つてきた普通乗用自動車に監禁連行したうえ、しいて姦淫しようと共謀して、鹿沼市さつき町鹿沼工業団地八街区台野原公園北側路上に駐車してあつた右普通乗用自動車内に石川京子をむりに押しこめ、同女の左脇に吉沢、半田がのりこんでその内鍵をしめ、阿久津を助手席にのせてみずからその乗用車を運転走行するなどして京子の脱出を不能にし、同女を同車内に監禁したまま鹿沼市茂呂地区の原判示飯島正男方前畑地にいたり、同所に駐車させた車内において吉沢がまず京子を強姦している間他の二名の者らとともに車外にたたずんで自己が同女を姦淫する順番を待ちうけていたが、その間、さきに、京子の同伴者である原判示加藤勇男の追跡を受けるなどのことがあつて、そのためすでに自車のナンバーを同人に確認され自己らの犯行てん末とともにこれを警察に通報されているのではないかということを恐れた被告人は、いつたんは一同とともに別の車両にのりかえ犯跡をくらますことをもくろんで、傍らにいた半田にその旨を告げるとともに阿久津を同伴して自己の友人のもとをおとずれその自動車を借用しようとはしてみたものの、同人から、「あすドライブに使うからすぐ持つて来てくれ。」といわれるなどのこともあつて、結局、当初の計画を実現することもおぼつかないことを知つて不安の念に駆られるのあまりむしろひとりいち早くその場から離脱するにしかずと考え、ともかく一応同人の自動車を借り受け阿久津をのせてさきの現場に引き返したうえ、元の車内で被告人らのくるのを待ちうけていた吉沢、および半田の両名に対し、「警察にわかつているかも知れないから、おれはさきに帰るから。」とのことわりを言つただけで、なおも同人らにとりかこまれて右自動車内に監禁されている石川京子をその場に残したまま単身ただちに自己の自動車を運転してその場を立ち去つてしまつたので、その後は阿久津(同人は、被告人が離去する前、すでに吉沢の指示によつてふたたび本件車内に立ち戻つていた。)、および吉沢の両名が、順次その運転を交代しながら、右鹿沼市茂呂から宇都宮市大谷町、今市市、藤原市大字高徳を経て宇都宮市石井町二、六七五番地付近路上まで本件乗用車を疾走させ、その間、半田とともに、右京子に対する監禁行為を継続したことが認められる。してみると、なるほど被告人が、右鹿沼市茂呂地区において他の共犯者らに対し自己が犯行から離脱する旨の意思を表明し、これについては他の一味の者らにおいても特段の異議をとなえることもなくして終り、その後における石川京子に対する監禁行為が、もつぱら右吉沢、半田および阿久津の三名のみによつて実行されたことは事実であるが、それにもかかわらず、被告人は、当初鹿沼工業団地八街区台野原公園北側路上において右三名と共謀して石川京子を本件乗用車内に監禁したものであり、しかも右の地点から前記宇都宮市石井町二、六七五番地付近路上にいたるまでの石川京子に対する一連の監禁行為は、全体として継続した一罪を構成するものと解される以上、被告人が、いつたん他の共犯者らと共謀のうえ右監禁の実行行為に関与したその後の時点において、他の共犯者らによるそれ以上の監禁行為の継続を現実に阻止することもなく(被告人は、前記鹿沼市茂呂地区の現場から退去する際、吉沢、および半田らに対し、単に「おれはさきに帰る。」とことわつただけではなく、「女をタクシーで帰し、早く帰つてこい。」との趣旨のことも言い添えた旨を述べているが、このことは、石川京子をはじめ当の吉沢、および半田両名の捜査官に対する各供述に徴しこれを認めがたいばかりか、仮に、その際被告人が右両名に対してその程度のことを言い添えたとしても、それが同人らの石川京子に対する監禁行為の継続を現実に阻止したことにならないのはいうまでもない。)、ただ単身右犯行から離脱する旨の意思を表明し、これに対して他の共犯者らが特段の異議をとなえなかつたというだけでは、やはり被告人としては、自己の離脱後における他の共犯者らの実行部分をもふくめて、右鹿沼工業団地八街区台野原公園北側路上から宇都宮市石井町二、六七五番地付近路上にいたるまでの石川京子に対する一連の監禁行為全体に対する責任を免れることはできない。もち論、被告人に対してその犯意を超える事態についての責任を問うことはできない。しかし、被告人は、前記鹿沼市茂呂地区の現場から退去するにあたつて、阿久津がすでに本件乗用自動車の運転席に戻つて発車の準備をととのえており、他方、後部座席には吉沢、半田の両名が、石川京子をその両脇からはさみこむような格好ですわりこんでいるのを目撃しながら、単に右両名に対して前記のようなことばを言い残したにとどまり、それ以上現実に同女を解放するのに役立つようななんらの措置もとつていないし、また、吉沢や半田らがいささかも同女を解放しようとする気配を示していないことを知りつつあえて単身その場から離脱しているのであるから、これらの点を合わせて考えると、その際、被告人は、吉沢らが必ずしもただちに京子の身柄を自由にするとは思つていなかつたばかりか、むしろ、なお同人らにおいて同女に対する監禁行為を継続するのではないかということを十分予想しながらも、わが身の安全を思うのあまりこれもまたやむなしとして事態をそのままに放置したうえ、いそぎその場を立ち去つたものであることを推認するにかたくなく、したがつて、被告人の離脱とはかかわりなく、その後においても右吉沢らによつて依然京子に対する監禁行為が続けられるであろうことを当時被告人がまつたく認識していなかつたとすることはできない。よつて、被告人に対し、鹿沼工業団地八街区台野原公園北側路上から鹿沼市茂呂地区にいたるまでの間石川京子を監禁した事実についてはもち論のこと、なおその後同地区から宇都宮市大谷町、今市市、藤原市高徳を経て宇都宮市石井町二、六七五番地付近路上にいたるまでひき続き他の共犯者らが同女を監禁した事実についても、その全部を通じて有罪と認定した原判決は相当であつて、この点につき原判決には事実の誤認や法令の解釈適用の誤りはない。論旨は理由がない。
(樋口 目黒 伊東)